これからツーリングを始めようと考えているあなたにとって、安全に走行するための装備を理解することは大切です。特に「ABS」という名前をカタログなどで見かけることがあっても、実際にどのような仕組みで私たちの安全を守ってくれるのかわからない方も多いのではないでしょうか。
ABSは現在、バイクの安全性を飛躍的に向上させる重要なシステムとして、法律により義務化されています。ツーリング先での雨天走行や急な減速が必要な場面で、命を守る重要な装備になります。本記事では、バイクのABSについて初心者の方にもわかりやすく解説し、安心してバイクライフを楽しんでいただくための知識をお伝えします。
この記事の要約
- ABSはタイヤのロックを防ぎ安全な制動を実現する。
- 急ブレーキ時に車体の安定性を保つことができる。
- ABS搭載車は制動距離が必ずしも短くなるわけではない。
- 滑りやすい路面で特に効果を発揮するシステムである。
ABSとは?
ABSの基本的な概念と仕組みについて詳しく見ていきましょう。
ABSの意味
ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)とは、急ブレーキをかけた際にタイヤがロックして滑ることを防ぐ安全装置です。国土交通省では「走行中の車両の制動に著しい支障を及ぼす車輪の回転運動の停止を有効に防止することができる装置」と定義されています。
わかりやすく表現すると、「ブレーキを強く握りすぎたときにタイヤのロックを防ぎ、安全かつ短い距離で停止することをサポートする装置」です。バイクでの転倒事故の原因として非常に多い「ブレーキの握りゴケ」を防ぐための重要なシステムといえます。
ABSの仕組み
ABSは前後輪に搭載されたセンサーによってタイヤの回転速度を常時監視しています。急ブレーキをかけてタイヤがロックしそうになると、センサーがこれを検知し、ブレーキの油圧を瞬時に制御します。
具体的には、1000分の1秒という極めて短い間隔でブレーキの作動と解除を繰り返し、タイヤの回転速度を回復させながら最適な制動力を維持します。この制御により、タイヤが路面とのグリップを保ちながら、安全に減速することができるのです。ライダーはブレーキレバーやペダルに振動を感じることがありますが、これがABSが作動している証拠です。
ABSとCBSの違い
バイクの安全装備として、ABSと並んでよく耳にするのがCBS(コンバインドブレーキシステム)です。この二つは全く異なる役割を持っています。
CBSは前後輪連動ブレーキシステムのことで、フロントまたはリアのどちらか一方のブレーキを操作すると、自動的に前後両方のブレーキが作動するシステムです。一方、ABSはタイヤのロックを防ぐシステムで、ブレーキの効果的な配分とは異なる目的を持ちます。
簡単に言うと以下の通りです。
| システム | 役割 |
|---|---|
| ABS | タイヤがロックしないようにする安全装置 |
| CBS | ブレーキが前後とも作動するようにしてくれる補助装置 |
現在では、両方の機能を組み合わせた「コンバインドABS」も開発されており、より高い安全性を実現しています。原付二種(51cc〜125cc)のバイクでは、ABSまたはCBSのどちらかの装着が義務付けられており、多くのメーカーがより効果的なABSの採用を進めています。
なぜABSが義務化されたのか?
バイクにABSが義務化された背景には、安全性向上への強い社会的要請がありました。
ABS義務化の背景と目的
ドイツのボッシュ社による調査では、ABSを標準装備することで生命に関わるバイク事故の約4分の1を防止できることが明らかになりました。バイクは四輪車と比較して事故時のリスクが高く、特にブレーキロックによる転倒事故は重大な結果を招く可能性があります。
世界各国でバイク事故の削減が課題となる中、ABSは最も効果的な安全装備として注目されました。特に、急ブレーキが必要な緊急事態や、雨天時・砂利道などの滑りやすい路面での走行において、ABSの効果は絶大です。こうした安全性の向上を目的として、世界的にバイクへのABS義務化が進められました。
日本で義務化になった時期
日本では、2015年1月に国土交通省が「道路運送車両の保安基準」などの改正を行い、バイクへのABS搭載が義務付けられることになりました。
具体的な義務化スケジュールは以下の通りです。
| 車両タイプ | 義務化開始日 |
|---|---|
| 新型車(126cc以上) | 2018年10月1日 |
| 継続生産車・並行輸入車(126cc以上) | 2021年10月1日 |
| 51cc〜125cc | ABS または CBS の装着が義務化 |
この義務化により、現在新車で販売されているほぼ全てのバイクにABSが搭載されており、ツーリングを始める方々にとってより安全な環境が整備されています。
ABSのメリット・デメリット
ABSの導入により得られる効果と、注意すべき点について理解しておきましょう。
ABSのメリット
ABSの最大のメリットは、急ブレーキ時のタイヤロックを防ぎ、転倒リスクを大幅に減少させることです。特にツーリング中の予期せぬ状況での急ブレーキや、雨で濡れた路面での制動において、その効果を実感できます。
主なメリット
- 急ブレーキ時のタイヤロック防止
- 転倒リスクの大幅な軽減
- 制動距離の短縮(特に悪天候時)
- ブレーキング中でもハンドル操作が可能
- ライダーの心理的安心感向上
制動距離の短縮も重要なメリットです。従来は滑りやすい路面でブレーキロックを恐れて控えめにブレーキをかけていたところを、ABSがあることで確実にブレーキをかけることができ、結果として停止距離が短くなります。また、ブレーキング中でもハンドル操作が可能なため、障害物を回避しながら減速することもできます。
さらに、ブレーキ操作への安心感が得られることで、ライダーは他の操作に集中しやすくなります。これにより、疲労で集中力が低下しやすいロングツーリングでも、事故のリスクを抑えながら安全に走行を楽しむことができます。
ABSのデメリット
ABSにもいくつかの注意点があります。まず、車両価格の上昇が挙げられます。ABSシステムには高精度なセンサーやコントロールユニットが必要なため、従来のバイクと比較して3万円から5万円程度の価格上昇となることが一般的です。
主なデメリット
- 車両価格の上昇(3万円〜5万円程度)
- 車両重量の増加(3〜5kg程度)
- システム故障時の修理費用
- 路面状況によっては制動距離が長くなる場合がある
車両重量の増加も考慮すべき点です。ABSシステムの部品により3〜5kg程度重量が増加し、これにより燃費や運動性能にわずかながら影響が出る場合があります。また、万が一ABSシステムに故障が発生した場合、修理費用が高額になる可能性があります。
最も重要な点は、ABSを過信してはいけないということです。ABSは安全性を向上させる装備ですが、100%事故を防げるわけではありません。高速走行時や路面状況によっては制動距離が長くなることもあり、基本的な安全運転を心がけることが最も大切です。
安全装備と合わせて検討したいバイク保険
ABSなどの安全装備でリスクを軽減できても、万が一の事故に備えることは大切です。
これからツーリングを始める方や既にバイクライフを楽しんでいる方にとって、適切なバイク保険への加入は必要不可欠といえます。
ダイレクト型のバイク保険なら、インターネットで手軽に見積もりができ、必要な補償内容を自分で選択できます。特に遠方へのツーリングを計画している方は、24時間365日対応のロードサービスや、事故時の相手方との示談交渉サービスが充実した保険を選ぶことで、より安心してバイクライフを楽しめます。
ABSによる安全性向上と適切な保険加入により、心配事を減らして思い切りツーリングを満喫しましょう。
保険の見直しをお考えの方は、以下よりご自身に合ったバイク保険を探してみてください。
まとめ
バイクのABSは、急ブレーキ時のタイヤロックを防ぎ、転倒リスクを大幅に減少させる重要な安全装備です。現在は法律により義務化されており、新車で販売されるほぼ全てのバイクに搭載されています。
ツーリングを始める方にとって、ABSは雨天走行や緊急時の安全性を大きく向上させる心強い装備です。ただし、ABSがあるからといって無謀な運転をするのではなく、安全運転を基本として、ABSはあくまで緊急時のサポートシステムとして活用することが大切です。
適切な知識を持ってバイクの安全装備を理解し、楽しく安全なツーリングライフを送りましょう。バイク保険の選択においても、ABSなどの安全装備が充実したバイクは保険料の面でメリットがある場合がありますので、バイク保険の見直しも合わせて検討することをおすすめします。
ABSに関するよくあるご質問
- ABSが作動しているときはどんな感じですか?
- ABSが作動すると、ブレーキレバーやペダルに振動や脈動を感じます。これは正常な動作で、システムが適切にタイヤロックを防いでいる証拠です。
- ABSがあれば絶対に転倒しませんか?
- ABSは安全性を向上させる装備ですが、100%の安全を保証するものではありません。高速走行時や極端な路面状況では限界があります。基本的な安全運転が最も重要です。
- 中古バイクを購入する際、ABS搭載車を選ぶべきでしょうか?
- ツーリングでの安全性を考慮すると、ABS搭載車をおすすめします。特に初心者の方や長距離ツーリングを予定している方には、ABSの恩恵は大きいといえます。






